韓国で近年、特に若年層を中心に中国ヘイトが深刻化しています。政府も対策に苦慮するこの問題は、なぜ拡大しているのでしょうか？本記事では、ニュース報道やSNSの声、具体的な行動、歴史的背景を掘り下げ、韓国社会に広がる複雑な対中感情の実態とその理由を深掘りします。
「韓国で中国ヘイトが拡大」報道の衝撃と政府の苦悩
2025年、韓国では「中国人排斥を主張するヘイトスピーチが拡大し、政府が対策に苦慮している」という衝撃的な報道が相次ぎました。特に、中国人団体観光客を対象としたビザ免除措置が開始されてから、その規模は拡大の一途をたどり、嫌中感情を煽る偽情報までもが出回る状況が確認されています。
この問題の深刻さは、国際社会からの警告にも現れています。2025年5月には、国連人種差別撤廃委員会が「韓国国内に広がる中国人嫌悪が懸念すべき水準に達している」と報告書で指摘し、韓国外交部も対策を模索せざるを得ない状況に追い込まれました。さらに、同年8月には大統領自身が「外国人や社会的弱者に対するヘイト、差別、暴力などが問題になることが多い」と述べ、特に「大林洞や中国の外交公館の前で、表現の自由を超える暴言や暴力が横行したヘイトデモが行われた」ことに触れ、「韓国の格にそぐわない光景」であると強い懸念を示しました。
こうした報道や声明は、韓国における中国ヘイトが単なる個人的な感情にとどまらず、国家レベルで対応が求められる深刻な社会問題として認識されていることを示しています。政府が対策に苦心している現状からも、この問題が容易に解決できるものではないことがうかがえます。参考：韓国で「中国ヘイト」が拡大 偽情報も、政府は対策に苦心 | nippon.com
若者世代に根強い「嫌中感情」：SNSに溢れるリアルな声と共感
韓国社会で特に注目すべきは、若年層における根強い中国への嫌悪感です。ある調査結果では、韓国の若者世代は日本よりも中国に対して強い嫌悪感を抱いており、「中国のすべてを嫌う」という意見さえ見られます。これは、若者の間で反中感情がどれほど浸透しているかを示す象徴的なデータと言えるでしょう。
SNS上では、この嫌中感情が様々な形で噴出しています。具体的な声として、以下のような事例が挙げられます。
- 「学校の中国人留学生は韓国語を話さず、韓国の悪口ばかり言う。本当に中国が嫌いだ。」といった個人的な体験に基づく不満。
- 中国人留学生からは、「国に帰れ」「チャンケ（中国人蔑称）」といった暴言を浴びせられたり、唾を吐きかけられたりした体験が語られ、韓国での生活に対する恐怖心が訴えられています。
- 「中国人お断り」と明示するカフェがソウルの繁華街に現れ、物議を醸しました。これに対し、中国人インフルエンサーからは「韓国で訪れたカフェの中で最も人種差別的なカフェだ」「なぜここまで中国を憎むのか理解できない」といった強い批判の声が上がり、国際的な注目を集める事態となりました。
こうしたSNSでの投稿や拡散は、反中感情をさらに増幅させる要因となっています。特に、X（旧Twitter）では「#韓国中国ヘイト」や「#嫌中感情」といったハッシュタグで検索すると、以下のような意見が散見されます。
「また中国人観光客のマナー違反のニュース見た。景福宮の塀の下で排便とか、もう呆れる。ノービザ反対の声が強まるのも当然だよね。#韓国 #中国ヘイト」
「『中国人お断り』カフェ、賛否あるけど正直共感しかない。言葉通じないふりして傍若無人な態度取られると嫌になるのは仕方でしょ。#嫌中感情」
このように、SNSでは具体的な出来事に対して共感や怒りが共有され、時には炎上やバズといった形で意見が広く拡散されています。これらの声の背景には、文化論争（キムチ、韓服の起源）、THAAD（高高度防衛ミサイル）配備問題以降の中国の経済報復、そして一般的に指摘される中国人観光客のマナー問題などが複雑に絡み合っていると考えられます。若者にとって、SNSは自らの感情を表現し、共感を求める重要なプラットフォームとなっているのです。
行動に現れる反中感情：デモ、入店拒否、そして偽情報の拡散
韓国における中国ヘイトは、SNS上の発言だけに留まらず、具体的な行動としても社会に影響を与えています。この感情が行動に転化することで、問題はさらに複雑化し、政府による対策も難しくなっているのが現状です。
代表的な行動としては、以下のような事例が確認されています。
- デモ活動の活発化: ソウルの繁華街では、中国人排斥を訴えるデモが繰り返し行われています。「中国人は出ていけ！」「ノービザ反対！」といったスローガンが掲げられ、その過激さは社会問題としてニュースでも報じられています。特に、一部の保守系ユーチューバーらが「中国人追放」「朝鮮族を追い出そう」といった集会を開き、露骨な嫌中発言を行うケースも見られます。
- 入店拒否問題: 前述の「中国人お断り」を掲げたカフェの事例は、人権委員会が調査に乗り出す事態に発展しました。これは、単なる個店の判断を超え、差別問題として法的な介入が必要なレベルに達していることを示唆しています。過去には「韓国人・中国人お断り」という差別的な張り紙が物議を醸した事例もあり、排他的な感情が特定の国籍に向けられる傾向が見られます。参照：「中国人お断り」提示のソウル・聖水洞カフェ…人権委が調査着手 | 中央日報
- 偽情報とフェイクニュースの拡散: 反中感情を背景に、事実に基づかない情報や誇張された内容がSNSや一部のメディアを通じて拡散され、さらに嫌悪感を煽る役割を果たしています。2025年11月には「韓国で『中国ヘイト』が拡大 偽情報も」という見出しのニュースが複数配信されており、問題の深刻さがうかがえます。偽情報は、特定の外国人に対する偏見を助長し、社会的な分断を深める危険性があります。
これらの行動は、反中感情が韓国社会の表面に現れ、具体的な摩擦や対立を生み出していることを示しています。政府はこうしたヘイトスピーチや差別的行為に対して対策を講じようとしていますが、根深い感情と行動の連鎖を断ち切ることは容易ではありません。また、個人の感情が「表現の自由」の範囲を超えて、特定の集団への暴言や暴力に繋がる危険性もはらんでいます。
なぜ若者は中国を嫌うのか？複雑に絡み合う背景を深掘り
韓国の若者世代が中国に対して抱く嫌悪感が、他の年代や他国と比較して特に強いという点は、この問題の根深さを示しています。なぜ、彼らはこれほどまでに中国を嫌うのでしょうか？その背景には、歴史的、文化的、経済的、そして政治的な複数の要因が複雑に絡み合っています。
- 文化論争と歴史認識問題: キムチや韓服の起源を巡る論争が中韓の若者の間で頻繁に発生し、これが反中感情を強める大きな要因となっています。韓国の若者たちは、自国の文化が中国によって「奪われようとしている」という危機感を抱きやすい傾向にあります。また、中国の「東北工程」に代表される歴史認識問題も、韓国の歴史や文化に対する中国の姿勢への不信感を募らせています。
- 経済的・政治的摩擦: 2016年のTHAAD（高高度防衛ミサイル）配備問題以降、中国が韓国企業への経済的報復（限韓令など）を行ったことは、韓国国民、特に若者にとって中国が「自国の利益を妨害する存在」という認識を強めました。大国である中国が、気に入らない周辺国に対して経済的な圧力をかける姿勢は、韓国の若者たちに強い反発を生んでいます。
- 新型コロナウイルス問題: 新型コロナウイルスの発生源とされる中国に対する感情も、嫌悪感の一因となっています。感染拡大初期における中国政府の対応や情報公開のあり方に対する不信感が、若者の間で広まりました。
- 中国人観光客のマナー問題: 景福宮の塀の下での排便といった具体的なマナー違反事例が報道されるたびに、SNSなどで非難の声が上がり、中国人全体に対するネガティブなイメージが形成されていきます。こうした個々の事例が、嫌悪感を増幅させるきっかけとなっています。詳細はこちら：なぜ韓国では若い人ほど中国を嫌うのか、高まる反中感情のワケ…｜サーチコリアニュース
- グローバル化と価値観の衝突: グローバルな情報に触れる機会が多い若者世代は、中国の権威主義的な政治体制、人権問題、ネット検閲などに対して、より批判的な視点を持つ傾向があります。自由や民主主義といった価値観を重んじる若者にとって、中国の姿勢は受け入れがたいものと感じられるのかもしれません。
これらの要因が複合的に作用し、韓国の若年層は中高年層よりも中国への嫌悪感が強く、調査対象国のなかで韓国だけがその傾向を示すという特殊な状況を生み出しているのです。これは、単なる感情論ではなく、歴史的経緯や国際関係、そして世代間の価値観の差が複雑に絡み合った結果と言えるでしょう。
まとめ：韓国の中国ヘイト問題から見えてくること
韓国における中国ヘイト問題は、多岐にわたる要因が絡み合う複雑な社会現象です。この記事を通じて、この問題について深く理解を深め、以下の点を今後の国際関係や異文化理解に活用できるでしょう。
- 韓国の中国ヘイトは、特に若年層を中心に深刻化しており、社会全体に広がる問題として認識されている。
- ヘイトスピーチ、デモ活動、「中国人お断り」といった具体的な行動、そして偽情報の拡散が問題の複雑性を増している。
- 歴史認識問題、文化論争、THAAD問題以降の経済摩擦、中国人観光客のマナー問題、そして世代間の価値観の違いが、若者の強い反中感情の背景にある。
- 政府も問題解決に苦慮しており、国際社会もその動向を注視している。
- 隣国間で生じる感情の摩擦は、互いの文化や歴史、政治的背景を深く理解することで、その根源を把握し、より建設的な関係構築のきっかけとすることができる。